法務note

Q 株主の相続人と主張する者が株主名簿の名義書換の請求をしてきた場合の対応

会社法

A 株主名簿上の株主が死亡したことと、その相続人であることの証明を求める。また、株券発行会社で株券が発行されている場合にも関わらず、請求人が株券を所持していない場合には、名義書換に応じるべきではない。

1 総論
 株主名簿上の株主(A)の相続人と称するBから、名義書換請求があった場合どのように対応すればいいか。
 なお、「相続人と称するB」は、共同相続で未分割の場合の共同相続人の1人に過ぎない場合(B1)、単独相続、遺産分割、遺言によってBが単独で確定的に取得したという場合(B2)が考えられる。以下、株券発行会社の場合とそうでない場合に分けて検討する。
 なお、定款で株式譲渡について会社の承認を要する旨の定めがあったとしても、相続のような一般承継による株式の承継には、この制限は及ばないと解されている(会社法134条4号参照)。よって、Bから会社に対して、その取得について承認を求めることは不要となる(但し、遺贈による取得の場合には、特定承継になるため、譲渡制限の制約を受けることになる。)。

2 株券発行会社ではない場合
 この場合、株式会社としては、Bが、B2であること、すなわち単独で確定的に株式を承継したことを証明する書類(戸籍事項証明書、法定相続情報証明書、遺産分割協議書、遺言等)の提出を求め(会社法133条2項、会社規則22条1項4号)、Bが権利者であることを確認した上で、名義書換に応じる必要がある。B1の場合には、相続人全員の共有名義への名義書換請求でない限り、名義書換の請求は拒絶できる。

3 株券発行会社の場合
 株券発行会社の場合、原則として株券が発行されなければならない(会社法215条1項)が、株券が発行されていない場合もあり得る。そこで、以下、株券が発行されている場合と発行されていない場合に分けて検討する。

(1)株券が発行されている場合

 ア Bが株券を所持している場合
 Bが株券を提示していれば、相続関係の証明を要することなく名義書換の請求ができるという見解もある。
 しかし、Bが相続で取得したと主張している以上、株券発行会社ではない場合と同様に、相続人として株式を承継したことを証明する書類の提出を求める必要があると考えるのが妥当と考える。株券発行会社の場合の名義書換の請求については、株券を提示することによる(会社法133条2項、会社規則22条2項1号)が、これは、株券を保有している者は権利者として推定される(会社法131条)ことを根拠にするところ、会社法131条は、特定承継を前提にしていると考えられ、相続による取得の場合には会社法131条の適用はないと考えられるからである。よって、2と同様に、Bが、B2であることの証明を求めるべきである。

 イ Bが株券を所持していない場合
 Bが株券を所持していない場合、Bが相続によって株式を取得したことを証明できたとしても、名義書換に応じるべきではない。なぜなら、株主名簿上の株主が、生前に株式を譲渡していたり、また、相続人が株式を譲渡していたりする可能性が否定できないからである。Bに対しては、株券を探してもらうか、株券失効制度の利用を促すことになる。

(2) 株券が発行されていない場合
 株券発行会社であっても、①株主から株券不所持制度(会社217条3項)の申出がなされた場合、及び、②定款によって単元未満株式に係る株券を発行しない旨を定めた場合(会社法189条3項)には、株券の発行が不要であるから株券が存在しない。また、③そもそも株券が当初から発行されていなかった場合もあり得る(全部株式譲渡制限会社の場合には、株主から請求されるまで株券を発行しない(215条4項)ことができるため適法であるが、公開会社の場合には違法な状態ということになる。)。いずれの場合にも、2及び3の場合と同様に、Bが相続人として株式を承継したことを証明する書類によって権利者であることを証明した場合、会社は、名義書換請求を拒むことはできないであろう。

4 なお、本問と直接関係ないが、株主が亡くなった場合、その相続人から会社が株式を買い取る場合、他の株主の売主追加の議案変更権という制約なく取得できるというメリットがある(会社法162条・160条2項・3項)ため、会社による買取も一考に値する。また、相続人に対する売渡請求をすることができる旨の定款が存在する場合(亡くなった以降の定款変更も可能と解する見解もある。)、この売渡請求を行使するか否かも視野にいれる必要がある。