法務note

Q 株主から株式譲渡承認請求がなされた。どのように対応すればいいか。

会社法

A 譲渡を承認するか、又は、拒絶するか、拒絶する場合当該株式を買い取るか等を速やかに決断する必要がある。

1 承認請求
 譲渡制限株式の譲渡を予定している株主又は株式取得者のいずれからも、会社に対して、その譲渡又は取得について、承認請求をすることができる(会社136条,137条1項。以下、これら請求を「譲渡等承認請求」と、これら請求をした者を「譲渡等承認請求者」と言う。)。但し、株式取得者が株式の取得について承認請求をする場合には、原則として、株式名簿に記載・記録された者(又は、それらの相続人)と共同して承認請求をする必要がある(会社137条2項)。
 譲渡等承認請求をする場合、当該株式数、株式取得者、及び、会社が承認をしない場合において、会社又は会社が指定する買取人が買い取ることを請求(買取請求)する場合その旨を明らかにする必要がある(会社138条)。

2 承認決定手続
 譲渡等承認請求をなされた会社が承認をするか否かの決定をする場合、特に定款に定めがない限り(※1)、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)の決議による必要がある(会社139条1項)。そして、会社は、譲渡等承認請求の日から2週間以内に、譲渡等承認請求者に対して、その決定の内容を通知する必要がある(会社139条2項、会社145条1号)。
 会社が譲渡等承認請求の日から2週間以内にこの通知をしなかった場合、譲渡等承認請求について、承認をする旨の決定をしたものと見なされてしまう(会社145条1号)。譲渡承認機関が株主総会の場合、その招集に一定の期間を要するので注意が必要である。

※1 定款で、譲渡等承認請求に対する決定機関を「代表取締役」とする旨を定めている会社も見受ける。しかし、これが違法であるとの有力な見解もあり、下級審ではあるが違法と判断した判例もある(東京地方裁判所平成28年10月26日判決(LLI/DB判例番号L07132328))。この点について最高裁判例もないため、注意が必要と思われる。すなわち、もし、代表取締役とする旨の定款の定めが違法で無効だとした場合、拒絶通知も無効となり(承認決定機関を代表取締役とする定款が無効である以上、原則に戻り、株主総会(取締役会設置会社においては取締役会)による決議が必要であるにもかかわらず、それを行っていないため)、譲渡等承認請求が為された日から2週間以内に拒絶通知をしていないことになり、承認をする旨の決定をしたものと見なされてしまう(会社145条1号)危険がある。

3 譲渡等承認請求を拒絶する場合
 会社が譲渡等承認請求を拒絶する場合は、前記のとおり、譲渡等承認請求の日から2週間以内に譲渡等承認請求者に対して、拒絶する旨を通知する必要がある。買取の請求がある場合には、会社は、会社が買い取るのか、会社が指定する者(指定買取人)が買取をするのかを決める必要がある(※2)。
 会社が買い取る場合には、その旨と買い取る対象株式数を、株主総会の特別決議によって定めることが必要となる(会社140条2項、309条2項1号)。
指定買取人を指定する場合には、定款に特に定めがない限り、取締役会設置会社においては取締役会決議、それ以外の会社においては株主総会の特別決議によって指定する必要がある(会社140条5項、309条2項1号)。

※2 会社が買い取る場合には、買取額は、売買の効力が生じる日における分配可能額を超えてはならないという財源規制の制約がある(会社461条1項1号・465条1項1号)。財源規制に違反した場合、みなし承認となってしまうと解されるため(※3)、譲渡等承認請求を認めたくない会社としては、最終的な売買価格(会社144条参照)が、分配可能額を超える可能性がある場合には、指定買取人による買取、又は、会社と指定買取人による買取を検討せざるをえなくなる。

※3 財源規制に違反した株式の取得の有効性については争いがあるところ、無効説を前提にすると、会社法145条3号、会社規則26条3号を類推解釈して、譲渡承認請求について承認をする決定をしたものと見なされると解される(山本爲三郎「会社法コンメンタール3-株式(1)」(2013年、㈱商事法務)400頁)。有効説を前提にした場合でも、当初会社が想定していた買取額は財源規制の範囲内であると考えていたが、後の裁判所による売買価格の決定(会社144条2項乃至4項)によって定められた額が財源規制の範囲を超えていた場合(裁判所の決定する額は、財源規制は及ばないと解される。)、会社は売買代金を支払うことができず、譲渡等承認請求者が会社との間の対象株式に係る売買契約を解除できると解され、解除により、会社が譲渡を承認する旨の決定をしたものと見なされることになる(会社145条3号、会社規則26条3号)(秋吉信彦外「新・類型別会社非訟」131頁)。

 

ア 会社による買取の場合
 会社が買取りをする場合には、一株あたりの純資産額に買取対象株式数を乗じた金額を供託し、供託を証する書面(供託書)を譲渡等承認請求者に対して交付し、更に、会社が買い取る旨等を通知する必要がある(141条1項・2項)。この書面の交付と通知は、会社が承認認拒絶の通知をした日から40日以内に行わないと、承認をする旨の決定をしたものと見なされてしまう(会社145条2号、会社規則26条1号)。

イ 指定買取人による買取の場合
 指定買取人による買取りの場合、会社が買取りをする場合と同様に、指定買取人は、一株あたりの純資産額に買取対象株式数を乗じた金額を供託し、供託を証する書面を譲渡等承認請求者に対して交付し、更に、指定買取人が買い取る旨等を通知する必要がある。この書面の交付を、会社が承認認拒絶の通知をした日から10日以内に行わないと、承認をする旨の決定をしたものと見なされてしまう(会社145条2号、同条3号・会社規則26条2号)。

4 売買価格の決定
 会社又は指定買取人が、譲渡等承認請求者に対して、買い取る旨の通知することによって売買契約が成立する。そして、会社又は指定買取人と譲渡等承認請求者との間で、売買価格についての協議をすることになる(会社144条1項・7項)。
 しかし、その協議が整わない場合には、いずれかから、買取の通知があった日から20日以内に、裁判所に対して、売買価格の決定の申し立てをすることができる(会社144条2項・7項)。この期間内に申し立てがないと、会社又は指定買取人が供託すべき額(一株あたりの純資産額に買取対象株式数を乗じた金額)が売買価格となる(会社144条5項・7項)。