法務note

Q 自己株式の取得にかかる留意点

会社法

A 自己株式取得に関する手続規制と財源規制がある。

1 総論
株式会社が自己の株式を取得する場合、実質的には、株主への出資の払戻になるなどの弊害が存するため、その手続が規制され(会社法156条以下)、また、分配可能額を超えてはならないという財源規制がある(会社法461条1項2号・3号)。

2 手続規制
会社法が予定している株主との合意による自己株式の取得の形態は、
ア 市場において行う取引や「発行者による上場株券等の公開買付け」による取得(会社法165条1項)
イ 全株主(種類株式発行会社では、特定の全種類株主)に対して、取得を勧誘する方法
ウ 特定の株主からの取得の方法、市場取引等による株式の取得方法
がある。閉鎖型の会社では、イの方法またはウの方法となる。

(1) 一般の場合(全株主対象)

ア 総会決議
この場合、株主総会の普通決議にて、①取得する株式数、②取得と引換えに交付する金銭等の内容とその総額、③株式を取得できる期間(1年を超えることができません)を定める必要がある(会社法156条)。

イ 取得価格等の決定
この総会決議で定められた範囲内で、会社は、①取得する株式の数、②1株を取得するのに引換えに交付する金銭等の内容及び数(又はこれらの算定方法)、③株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額、④株式譲渡の申込みの期日を決定する(会社法157条1項)。この決定機関は、取締役会設置会社では、取締役会となる(会社法157条2項)。取締役会非設置会社では、争いあるが、株主総会で定める必要があると解される。

ウ 株主への通知
会社は、イで定めた事項を株主へ通知しなければならない(会社法158条1項)。

エ 譲渡の申込み
ウの通知を受けた株主で、譲渡を申し込もうとする株主は、会社に対して、譲り渡そうとする株式の数を明らかにする必要がある(会社法159条1項)。そして、イ④の申込みの期日において、会社がその申込みを承諾したものと見なされる(会社法158条2項本文)。
但し、イ①で定めたの株式の数よりも、申込みに係る株式総数が多い場合、按分比例(端数は切り捨て)で取得することになる(会社法158条2項但書)。

(2) 特定の株主からの取得について
特定の株主から株式を取得する場合、前記アの総会において、特定の株主から取得することをも決議する必要がある(会社法160条1項)。この場合には、特別決議になる(会社309条2項2号)。この総会においては、売主となる特定の株主(後述の議案変更請求で追加された売主も同様)には議決権はない(会社法160条4項)。
また、この株主総会に先だって、以下の通知時期までに、売主について自己をも追加するよう議案の変更を請求する権利(売主追加の議案変更請求権)があることを通知する必要がある(会社法160条2項)。
なお、会社法施行規則29条の表題は「議案の追加の請求の時期」とあるが、「議案の追加」ではなく、「議案の変更」と思われる。議案が追加されるとすると、株主Aからの自己株式の取得という議案は可決され、株主Bからの自己株式の取得という議案は否決されるということもあり得るが、株主間の平等を害することになる。

    通知時期
会社法施行規則
28条柱書
原則 株主総会の日の2週間前
同条1号 法299条1項の規定による株主総会の招集通知を発すべき時が当該株主総会の日の2週間を下回る期間(1週間以上の期間に限る。)前である場合 当該通知を発すべき時
同条2号 法299条1項の規定による株主総会の招集通知を発すべき時が当該株主総会の日の1週間を下回る期間前である場合 当該株主総会の日の1週間前
同条3号 法300条の規定により招集手続を経ることなく当該株主総会を開催する場合 当該株主総会の日の1週間前


これを受けた株主は、以下の請求時期までに(会社規則29条)、売主追加の議案変更請求権を行使できる。

    請求時期
会社法施行規則
29条本文
原則 株主総会の日の5日前
(定款でこれを下回る期間を定めた場合にはその期間)
会社法施行規則
29条但書
会社法施行規則28条各号に掲げる場合 株主総会の日の3日前
(定款でこれを下回る期間を定めた場合にはその期間)

売主追加の議案変更請求権の留意点については、「Q 会社が特定の株主から株式を買い取る場合の留意点」参照。

但し、この議案変更請求権は、会社が株主の相続人等の一般承継人から、その相続等により取得した株式を取得する場合には発生しない(会社法162条)。
前記イ、ウ及びエの手続については、一般の場合と同様になるが、「ウ 株主への通知」については、特定の株主に対する通知で足りる(会社法160条5項)。

3 財源規制
株主から株式を取得するにあたり株式に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、原則として分配可能額を超えてはならないという財源規制の制約がある(会社法461条1項2号・465条1項1号)。この原則は、前記の一般の場合にも、特定の株主からの取得の場合にも適用される。