法務note
Q 特定調停スキームを利用した事業の清算とは。
特定調停スキームを利用した事業の清算とは、日本弁護士連合会が策定した「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引」に基づく手続きで、特定調停手続きを利用し、経営者の保証債務を一体として、金融機関との間で清算に関する合意をし、事業を円滑に廃業・清算をさせ、かつ、経営者の経済的再建も図る手続きです。
特定調停スキームを利用するメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
1 取引先を巻き込まない
破産手続きの場合には、金融債権も商取引債権も全て公平に扱われる結果、商取引債権も手続きに取り込まれ、商取引債権者にも迷惑をかけてしまいます。しかし、特定調停スキームは、原則として金融債権者のみを対象とする手続きのため、商取引債権者に迷惑をかけない手続きです。
2 事業を継続しながら清算をするというソフトランディングが可能
破産手続を利用する場合、突然、事業を廃止することになります。しかし、特定調停スキームは、事業を継続しながら清算に向かう手続きのため、ソフトランディングが可能です。
3 経営者の保証債務と一体的に整理することが可能。
破産手続きの場合、会社と経営者個人の破産鉄続きは、法的には2つの別個の手続きとなります。しかし、特定調停スキームを利用した場合、会社の債務と経営者個人の保証債務を一体的に整理することになります。そのため、破産の場合には、法律上許された範囲でしか、経営者個人の財産を残すことはできませんが、特定調停スキームを利用した場合、それを超えてインセンティブ資産を残すことが可能な場合があります。
4 債権者側にも、破産の場合よりも経済的合理性があること、裁判所の関与があるため手続きの公正が担保されていること、債権免除について損金算入が可能になること、というメリットがあります。
このように良いこと尽くめの手続きですが、特定調停スキームを利用できる場合というのはかなり限定的な場面になると思われます。
というのは、まず、金融債権者のみを対象にする手続きということは、それ以外の公租公課、労働債権、商取引債権を全て支払うだけの余力があることが前提となっているからです。多くの場合、頑張りすぎて、金融債権以外の債権をも支払うことが困難な状況まで困窮してしまっています。ですので、なるべく早めに検討をするということが必要になります。
また、金融機関にとっても経済的合理性のある弁済計画案を提示できることが必要で、かつ、全金融機関の同意が得られることが必要だからです。経済的合理性があるということは、破産手続きの場合よりも、金融機関にとって有利な弁済内容であるということです。前記のとおり、商取引債権も全て支払うことが前提となっていますので、未払いの商取引債権が過大な場合、金融機関にとって経済的合理性ある弁済計画案を提示することは困難となります。
更に、特定調停スキームを利用するためには、破産等の法的倒産手続きを利用するのが好ましい場合でないこと、という要件が必要だからです。「破産等の法的手続きを利用するのが好ましい場合」というのは、直前に詐害行為や偏波行為等の行為があり、否認権の行使や役員の責任追及の必要性がある場合、すでに債権者からの差押等の個別の権利行使が開始されてしまっている場合が考えられます。このような場合には、特定調停スキームを利用することは難しいでしょう。