法務note

Q 相続に際して、株式・事業用資産が分散しないための事前の対策について

事業承継

経営者の死亡によって、経営者が有していた会社の株式や事業用資産が、相続によって相続人に分散してしまい、事業の円滑な承継が阻害される可能性がある。
また、後継者による経営を安定させるためには、後継者に株式を集中させる必要がある。株主総会にて議案を可決させられないのでは、会社経営が停滞してしまう。そのため、できれば特別決議を可決させることができる3分の2以上の議決権を、最低でも普通決議を可決できる過半数の議決権を後継者が有するようにしておく必要があると思われる。

1 生前の株式譲渡
最もシンプルな方法は、生前に、後継者に対して株式等を贈与乃至売買する方法である。
贈与の場合には、贈与税が課税されることになるので、贈与税の課税方式(暦年課税、相続時精算課税)事業承継税制を用いて、贈与税の軽減策を検討することが不可欠となる。
また、他の推定相続人の遺留分を侵害する可能性が有る場合、その手当が必要なことは遺言の場合と同様である。
売買によって譲渡する場合には、後継者が売却代金を用意することができない場合、どのように資金手当をするかという問題がある。

2 遺言(死因贈与)
遺言乃至死因贈与契約によって、株式を後継者に承継させることも典型的な分散防止策になる。
従前は、他の相続人の遺留分を侵害するような場合、他の相続人から減殺請求されることにより、株式の一部が遺留分減殺請求権者のものになってしまうという効果があり、結果として株式や事業用資産が他の相続人に分散してしまうことになった。
しかし、民法の改正により、このような効果がなくなり、遺留分を侵害された者が、遺留分侵害額相当の金銭の支払を請求できるという効果になった。そのため、推定相続人の遺留分を侵害するような遺言であっても、株式や事業用資産が分散してしまうことはなくなったが、遺留分侵害額に対する金銭請求に対する対策を検討する必要がある。この対策としては、遺留分の事前放棄や、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)による遺留分に関する特例(除外合意と固定合意)等が考えられる。これらは、他の推定相続人の協力が必要となるが、現経営者が生存中であれば、後継者と推定相続人間の調整ができる可能性がある。

3 定款変更
相続等で株式が移転した場合、会社が当該株式の相続人に対して、会社に対して売り渡すよう請求できるという相続人等に対する売渡請求権という制度が会社法上設けられている(会社174条)。しかし、この請求権は、定款で定められていることが必要である(相続後の定款変更でも可とされている。)。
また、議決権制限種類株式や取得条項付種類株式等の種類株式を利用することによっても、株式(議決権)の分散を防止することが可能だが、種類株式を発行するにも定款で定められていることが必要となる。
相続が発生し、株式が分散してしまっては、容易に定款変更ができなくなるので、現経営者が生存中で、容易に定款変更手続ができる時期に、定款を見直すことは有益と思われる。

4 その他
現経営者が有する株式の分散防止とは異なるが、後継者の経営の安定という目的であれば、募集株式または新株予約権の発行や、他の安定株主(役員、従業員持株会、取引先等)の導入という方法も考えられる。