法務note

Q 所在不明株主の株式売却制度

会社法

Q 行方不明株主の取扱」のとおり、所在不明株主の株式については競売等の株式売却制度(会社法197条)が定められている。

 

1 所在不明の株式売却制度の要件

会社法上、以下の3つの要件が定められている。

(1)  その株式の株主に対して会社法196条1項又は第294条2項の規定により通知及び催告をすることを要しないもの(会社法197条1項1号)

① 「5年以上継続して」
会社法196条1項によって通知及び催告を要しない場合とは、「株主に対する通知・催告が5年以上継続して到達しない場合」であり、この「5年以上継続して」とは最初に通知等が到達しなかったときから継続して5年ということになる。例えば、令和3年5月の通知が届かなかった場合、そこから継続して5年なので令和8年6月までということになる。そして、後述のとおり、市場価格のない株式を競売以外で売却する場合には裁判所の許可を得る必要があるので、「5年以上継続して到達しない」ことを疎明するため、令和3年5月分から令和8年6月分の返戻封筒及び内容物の現物を保管しておく必要がある。

② 「株主に対する通知」
「株主に対する通知」が法律で定められている通知が含まれることは疑いないが、特に条文上通知について限定がなされていない以上、法定の通知以外の任意の通知もこれに含まれると解される(※1)。

③ 通知及び催告の宛先
この通知及び催告は、株主名簿に記載された株主の住所となる。また、当該株主から別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先に関する通知を受けている場合には、その場所又は連絡先が宛先となる(会社法126条)。

④ 企業再編があった場合
合併、株式交換、会社分割等の企業再編が行われた場合、この要件が引き継がれるのかという問題がある。
包括承継であるという理由から肯定する見解もある(※2)が、株式分割や株式移転の場合には株主の地位に継続性はなく、会社分割も必ずしも包括移転とは言えないことから要件は引き継がれないと考えるべきとの意見もある(※3)。

 

(2) その株式の株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったもの(同条項2号)

通知が届かなくても、剰余金の配当は銀行振込を通じて受領している場合もあるからである。剰余金の配当が実施され、当該配当が5年間継続して受領されていない場合はもちろん、無配であった場合にもこの要件を充たすと解されている(※4)。但し、反対説もある(※5)

 

(3) 株券喪失登録がされた株券に係る株式でないこと(会社法230条4項)

 

2 所在不明の株式売却制度の手続

この売却手続の具体的な手続は以下のとおりである。

(1) 売却決定

会社法上特に定めはないが、業務執行に準じて業務執行機関がその決定をする必要がある(※6)。よって、取締役会設置会社では取締役会にて決議する必要がある。なお、会社が買い取る場合には、買い取る株式数と引換えに交付する金銭の総額を定める必要があるところ、取締役会設置会社においてはこの決定は取締役会によらなければならない(会社法197条3項・4項)。
決議する内容としては、以下の事項が考えられる(※7)。
① 所在不明株式の株式を売却する旨
② 売却予定株式数
③ 会社法198条1項に定める異議申述期間(3ヶ月を下回ることはできない。)
④ 換価方法(競売、市場売却、任意売却、自社による買取)

 

(2) 異議申述公告及び催告

売却する場合、会社は、株主その他利害関係人が一定の期間内(3ヶ月を下回ることはできない。)に異議を述べることができる旨を公告し、かつ、当該株主(及びその登録株式質権者)に格別に催告をするしなければならない(会社法198条)。公告と催告の双方が必要となる。
公告すべき事項は、以下の事項である(会社施行規則39条)。
① 対象株式の競売または売却をする旨
② 対象株式に係る株主の株主名簿上の氏名及び住所
③ 対象株式の数
④ 対象株式について株券が発行されているときは株券の番号
なお、催告は、会社に通知を受ける場所または連絡先の通知がなされていたとしても当該指定場所等に加えて株主名簿上の住所にも行う必要がある(会社法198条2項)。

 

(3) 裁判所の許可(市場価格のない株式について競売以外の方法で売却する場合)

市場価格のない株式について競売以外の方法で売却する場合には、裁判所の許可を求める必要がある。この場合、取締役が2名以上居るときには全員の同意が必要となる(会社法197条2項)。
疎明資料として必要なものは東京地裁の「所在不明株主の株式売却許可申立事件についてのQ&A」では、以下の疎明資料が必要とされている。
① 履歴事項全部証明書
② 株主名簿
③ 5年間分の株主総会招集通知書及び返戻封筒
④ 5年間分の剰余金配当送金通知書及び返戻封筒
⑤ 取締役会議事録(取締役会設置会社で会社が買い取る場合)
⑥ 買受書(当該株式会社以外の者が買い取る場合)
⑦ 官報(公告)
⑧ 催告書及び発出したことが分かる資料
⑨ 株価鑑定書
⑩ 前取締役の同意書(取締役2名以上の場合)

特に「5年以上継続して到達しなかった」事実の疎明については、代表取締役の陳述書等での疎明は認められず、必ず5年間継続分の返戻封筒の提出が求められているので注意が必要である。

 

(4) 換価手続

看過手続としては、法文上、競売手続が原則である(会社法197条1項)であり、競売に代えて、競売以外の方法によっても売却できる。
競売以外の方法による売却方法は、市場価格がある株式の場合とない株式の場合の二通りに分かれる。
市場価格のある株式については、次の二通りの売却方法がある。
① 市場において売却する方法(会社施行規則38条1号)
② 次のいずれか高い額で売却する方法(会社施行規則38条2号)
 ア 売却日におけるその株式を取引する市場における最終価格
 イ 売却日においてその株式が公開買付等の対象であるときは、その売却日における公開買付等に係る契約における株式の価格

市場価格のない株式について競売以外の方法で売却する場合には、裁判所の許可を得る必要がある。この場合、取締役が2名以上あるときは、その全員の同意によってしなければならない(会社法197条2項)。

会社が買い取ることも可能であるが、分配可能額を超えて買い取ることはできない(会社法461条1項6号)点も留意する必要がある。
会社が買い取る場合、先のとおり買い取る株式数と引換えに交付する金銭の総額を定める必要がある。この決定は、取締役階設置会社の場合には取締役会にて定める必要がある(会社法197条4項)。取締役会非設置会社の場合、取締役2人以上の場合はその過半数で決定する(会社法348条2項)。また各取締役に委任することもできる(会社法348条3項参照)。

 

(5) 株式の移転の効力発生時期

会社が買い取る場合、株式の移転の効力発生時期について、特に定めがないが、代金を分離して保管するようになった時点で会社への株式の移転の効力が生じると解される。
売却代金を保管する手間を避ける場合、債権者不確知を理由に供託をすることも可能である(民法494条)。この場合、遅滞なく債権者(株主)に供託の通知をしなければならない(民法495条3項)。

 

※1 始関正光編「Q&A平成14年改正商法」(商事法務2003年)239頁。全国株懇連合会「全株懇ジム取扱指針等の改正(1)」商事法務1955号84頁
※2 落合誠一ほか「〈座談会〉平成14年商法改正と株式制度〔下〕-新しい株式制度の理論と実務対応」商事法務1665号31頁
※3 清水博之「所在不明株主の株式売却制度」商事法務1955号42頁注10
※4 江頭憲治郎「株式会社法 第8版」214頁注12
※5 新山雄三「新基本法コンメンタール 会社法1【第2版】」399頁
※6 山下友信編「会社法コンメンタール4-株式(2)」(商事法務、2009)245頁
※7 清水博之前掲32頁