法務note

Q 株主名簿閲覧請求権

会社法

株式会社は、株主名簿をその本店に備え置かなければならない(会社法125条1項)。
この株主名簿については、閲覧謄写請求権が定められている(会社法125条2項)。謄本の交付の請求は認められない(Q 「謄写の請求」と「謄本の交付の請求」)。
この閲覧謄写請求ができる主体は、株主又は債権者である。

そして、この請求をするための手続としては、会社に対して、株主名簿の閲覧謄写請求をする理由を明らかにする必要がある。
この理由については、書面によることは要しないが、後に言った言わないという問題を残さないようにするために、書面に理由を記載して請求をすべきことになる。

会社の拒絶事由としては、以下の事由が定められている(会社法125条3項)。
① 請求者がその権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき
② 請求者が当該会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき
③ 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき
④ 請求者が過去2年以内に株主名簿の閲覧等で知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるとき

①の「その権利の確保または行使に関する調査」目的か否かに関して、名古屋高裁平成22年6月17日決定(資料版/商事法務316号201頁)は、金融商品取引法(金商法)上の損害賠償請求訴訟の原告を募る目的について、金商法上の損害賠償請求権を行使するためには現に株主である必要はないのに対して、「株主の株主名簿閲覧等請求権は、株主を保護するために、株主として有する権利を適切に行使するために認められたものであり、権利の行使には株主であることが当然の前提となるものであって、金商法上の損害賠償請求とはその制度趣旨を異にする。」ことを理由として、「権利の確保または行使に関する調査」には該当しないと判断した(これについて抗告及び特別抗告がなされており、許可抗告について、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。」とされている(最高裁平成22年9月14日決定(資料版/商事法務321号58頁))。)。

また。東京地裁平成24年12月21日決定(商事法務2116号52頁)は、
「自己の保有する株式数を増加させ、株主総会における発言権を強化することは、上記のような株主の権利の確保又は行使の実効性を高めるために最も有力な方法といえる。かかる観点からすると、株主が他の株主から株式を譲り受けることは、株主としての権利の確保又は行使と密接な関連を有するものといえ、このような株式譲受けの目的で現在の株主が誰であるかを確認することは『株主の権利の確保又は行使に関する調査』に該当する。そして,この理は、本件のように上場会社を対象会社とする公開買付けの場合も異ならないというべきである。したがって、公開買付勧誘目的は、『株主の権利の確保又は行使に関する調査以外の目的」とはいえない
と判断している。
株式を譲り受けることは、「株主の権利の確保または行使」そのものではないが「密接な関連を有する」事項と判断することによって、閲覧謄写請求を肯定している。

なお、請求目的が複数存在し、拒否事由が存する理由と拒否事由が存しない理由が混在している場合について、拒否事由が存しない理由(正当な目的)が一つでも存在する限り、閲覧等請求を認めるべきとの見解も存するが、前掲名古屋高裁の原審である名古屋地裁岡崎支部平成22年3月29日決定(資料版/商事法務316号209頁)は、「併存する正当な目的とそうでない目的のいずれかが主たる目的であるかにより決する」とされている。そのため、閲覧等請求の理由が複数ある場合についても、闇雲に複数の理由を記載すればいいというものではない点留意する必要がある。