法務note

Q 「謄写の請求」と「謄本の交付の請求」

会社法

会社法は、「謄写の請求」と「謄本の交付の請求」を分けて使っている。

「謄写」とは手書きによる筆写のみならず、写真撮影やコピー機による複写も含まれると解されている(※1)。
「謄本の交付」は、会社が複写したものを株主等に交付することを意味するが、「謄写」の場合、株主等が自ら「謄写」することを意味し、謄写する主体が異なることになる。

「謄写の請求」と規定されている例は、
・ 株主名簿(会社法125条2項)
・ 株主総会議事録(会社法318条4項)
・ 取締役会議事録(会社法371条2項)
・ 会計帳簿(会社法433条1項)
である。

これに対して、「謄本の交付の請求」と規定されている例は
・ 定款(会社法31条2項2号)
・ 計算書類(会社法442条3項2号)
がある。

会社法がこのように明確に使い分けて規定している以上、「謄写の請求」と規定されている場合に「謄本の交付の請求」をすること、また、「謄本の交付の請求」と規定されている場合に「謄写の請求」をすることはいずれもできないと解されている(※2)。

「謄写の請求」が規定されている場合、株主等は、会社にて「謄写」することになるが、会社に対して会社のコピー機の使用を求める権利はないと解されている(※1)。もっとも会社が、任意にコピー機の使用を許諾することはできる。但し、株主毎に対応が異なる場合、株主平等原則違反の問題が生じる。また、この場合の謄写費用は、謄写をする者の負担と解されている(※3)。会社としては、コピーの使用を許諾するか否か、許諾する場合の費用等について、規定やマニュアル等を作成するなど会社としての対応を確認しておくべきと思われる。また、株主等の謄写請求者としては、対象資料が膨大な場合、手書きで写しを作成するのは現実的でなく、また、会社がコピー機の使用を認めない場合や、複写費用が膨大になる可能性もあるため、デジタルカメラを用意することになろう。

 

※1 宮崎地裁平成14年4月25日判決(判例タイムズ1185号102頁)
※2 東京地方裁判所商事研究会「類型別会社訴訟Ⅱ〔第三版〕」643頁・654頁。※1の判例も、謄写請求が規定されている株主名簿(商法263条2項の事案)について、謄本交付請求権がないことを理由に謄本の交付請求を拒絶した会社の行為について違法性はないと判断している。
※3 東京地方裁判所商事研究会「類型別会社訴訟Ⅱ〔第三版〕」656頁