法務note
Q 株主による株主総会の招集の要件
総株主の議決権の100分の3(※1※2)以上の議決権を有する株主(※3)は、以下の要件を充たす場合、自ら株主総会を招集できる(会社法297条4項・325条・868条1項)。
① 同株主が、取締役(代表取締役・執行役)に対して、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集をする請求すること(会社法297条1項・325条)。
② ア その後遅滞なく総会招集の手続が行われない場合、または、
イ 請求の日から8週間以内の日を会日とする総会の招集の通知が発されない場合(※4)
③ ①の株主が、裁判所の許可を得ること
要件で問題となる事項
Q 単独で100分の3を有する必要があるか。
A 複数の株主の有する議決権を合わせることによって充たされてもよい(青竹正一「会社法コンメンタール7-機関(1)」58頁、「新・類型別会社非訟」(判例タイムズ社)23頁)。
Q 議決権数の要件は、いつまで必要か。
A 株主が招集した株主総会の終結時まで持続する必要があると解されている(「新・類型別会社非訟」(判例タイムズ社)23頁)
Q 株主が予定する決議が可決される可能性がない場合
A 招集許可申請の当否を判断するにあたって考慮にいれる必要のない事項である(東京地裁昭和63年11月2日決定。金融法務事情1212号39頁)。
但し、権利濫用として許可申請を却下した判例もある(神戸地裁尼崎支部昭和61年7月7日決定(判例タイムズ620号168頁)。
Q 権利濫用とされる場合
A 剰余金がないことが明白なのに剰余金の配当を議題とする場合、会社の信用を害する場合、経営が混乱に陥る場合等(「新・類型別会社非訟」(判例タイムズ社)30頁)
Q 会社が請求の日から8週間を超える日を会日とする総会の招集通知を発した場合
A 原則:株主の総会招集許可申請権が当然に失われるものではない。
例外:裁判所が少数株主による総会招集を許可したとしても会社の招集した総会より前に総会を開催できる見込みがない等の特別の事情が認められる場合には、総会招集許可申請はその利益が失われる(東京地裁昭和63年11月2日決定。金融法務事情1212号39頁)。
なお、東京高裁令和2年11月10日決定(金融・商事判例1608号46頁))は、裁判所が株主による株主総会の招集を許可したとしても、会社が招集した臨時株主総会より前に株主総会を開催することができる見込みがない特段の事情が認められるとして許可申立を却下した原審に対する抗告を棄却した。しかし、その後、会社は臨時株主総会の開催を中止し、株主総会を開催しなかった。実務においては、このように会社が現実に株主総会を開催する保障がないため、会社が株主総会を開催して決議がなされるまで手続を留保する扱いがされることが多い(「新・類型別会社非訟」(判例タイムズ社)30頁)。なお、この事案では、原審において会社は、①株主が提案する議題を目的とする株主総会を令和○年○月○日までに開催すること、②①の誓約に反したことにより、株主が本件議題を目的とする株主総会を開催しようとする場合には、これに協力をすること、③会社の責に帰すべき事由により①②の誓約に反したときは、これにより株主に生じた損害を賠償することを誓約する旨の誓約書を提出している。
なお、許可決定に対して、会社が不服申立をすることは許されない(会社法874条4号)。却下決定に対しては、申立人が通常抗告をすることができる(非訟事件手続法20条2項)。
※1 定款による引き下げ可能
※2 特例有限会社の場合
特例有限会社の場合には、定款に別段の定めがなければ、総株主の議決権の10分の1以上を有する株主(整備法14条1項・2項・5項)となる。
この定款の別段の定めは、要件を加重し株主の権利を制約したり、また、株主による総会招集権そのものを排除するものであっても構わないと解されている(江頭「株式会社法 第8版」326頁注6)。
※3 保有期間
非公開会社の場合には、議決権の保有期間は要件とされていない。
しかし、公開会社の株主の場合、請求の6ヶ月前から引き続きその割合の議決権を有するものに限られる(会社法297条1項・2項)。
※4 アとイは別個の要件ではなく、イはアを具体化したものである(青竹正一「会社法コンメンタール7-機関(1)」62頁)。