法務note
Q 精神不調による療養のための欠勤
Q 社員がうつ病に罹患し、療養のために相当期間欠勤しているので、解雇したいが問題ないか。
1 業務に起因する疾病の場合
従業員の疾病の原因が、業務上のものである場合、その療養中の休業及びその後30日間は、解雇できない。但し、3年経過しても疾病が治らない場合には、「打切補償」(平均賃金の1200日分)を支払う場合には、この解雇制限が解除される(労基法19条1項)。判例も、この打切補償による解雇を意図していたなどの解雇権の濫用にならない限り、打切補償を支払うことによる解雇について、合理的理由があり社会通念上も相当と認められると判断している(東京高裁平成22.9.16判決。判例タイムズ1347号153頁)。
なお、この労基法19条1項は、傷病休職の制度による休職期間満了後の自然退職の場合にも類推適用される(アイフル(旧ライフ)事件・大阪高裁平成24年12月13日判決)。よって、業務上の疾病については、傷病休職の制度による休職期間満了後の自然退職の取扱も無効と解される。
2 業務が原因か否かの判断
従業員の疾病が心理的負荷による精神障害の場合、業務に起因するか否かの判断は困難となる。この場合、疾患名、原因となる業務による心理的負担の程度、その業務の時期と発病の時期との期間、精神障害の既往歴等の事情から総合的に判断する必要がある。前記アイフル(旧ライフ)事件は、恒常的な常軌を逸するほどの長時間の時間外労働時間(月158時間~241時間)を理由に、業務起因性を認めている。
3 業務に起因しない疾病の場合
従業員が疾病で欠勤しているとしても、直ちに解雇を検討するのではなく、休暇や休職などの制度により療養の機会を与え、疾病の回復を待つことが必要となる。但し、多くの就業規則で設けられている「傷病休職」の制度は、休職期間満了後は、解雇又は自然退職という効果が伴い、法的には、解雇猶予といえるので、会社が一方的に労働者に対して休職を命じる「休職命令」をする場合には、その必要性及び合理性を慎重に検討する必要がある。
療養による回復のための相当の期間を設けたにもかかわらず、回復の見込みがない場合に、解雇を検討することになる。休職命令を発令している場合には、休職期間満了後に、解雇事由になること、又は、自然退職になることが明記されていることが多い。前者の場合には、別途、解雇の意思表示が必要になるところ、後者の場合には、何らの意思表示を要することなく退職即ち雇用契約終了の効果が生じることになる。
これに対して、従業員が、疾病が治癒し、業務に復帰できると主張することも考えられる。この場合、業務内容や勤務時間等に配慮し、様子を見るなどして復帰の可能性を判断する必要がある。従業員から同意を得て、主治医から意見を聞くことも重要になる。
また、その労働者が従前就いていた業務(例えば、現場監督業務)を行うことができないと認められる場合でも、解雇が認められるか否かの判断に際しては、その労働者との雇用契約上、業務内容が限定されているか否か、限定されていない場合、他の業務(例えば、事務作業)への就労可能性の有無、労働者の他の業務への就労の希望の有無、労働者の配置転換の現実的可能性についても慎重に検討する必要がある(片山組事件・最高裁第一小法廷判決平成10年4月9日参照)。