法務note

Q サイニングボーナス返還約束の適法性

労務関係

サイニングボーナスとは、採用時に使用者から労働者に対して支払われる一時金を意味する

このサイニングボーナスの支給自体は、単なる贈与であり何ら法的に問題はない。

しかし、この支給に際して、一定期間の間に退社をした場合には返還をしなければならないという返還条項が定められていることがある。

この返還条項が労基法5条(強制労働の禁止)、16条(賠償予定の禁止)に該当し、無効になるのではないか問題となる。

この点について、日本ポラロイド事件(東京地裁平成15年3月31日判決(労働判例849号75頁))は、サイニングボーナス200万円の返還請求に対して、このサイニングボーナスが「被告を自らの意思で退職させることなく1年間原告会社に拘束することを意図した経済的足止め策に他ならない。」とし、また、「被告の債務不履行による違約金又は賠償額の予定に相当する性質を有していることも認められる。」と指摘し、「被告の意思に反して労働を強制することになるような不当な拘束手段であるといえるから、労働基準法5条、16条に反し、本件報酬約定のうち本件サイニングボーナス返還規定は、同法13条、民法90条により無効である」と判断している。

なお、この判例は、「サイニングボーナスの額に比べ毎月の支給額が極めて高額であるといったような特段の事情」があれば有効となる余地を認めている。この事件では、サイニングボーナス200万円という額が、労働者の月額報酬の約2倍であった点について、「通常の労働者は退職を躊躇するとみるのが相当」と判断し、上記結論に至っている。