法務note

Q 株主から会計帳簿等の閲覧謄写請求がなされた。どのように対応すればいいか。

会社法

A 請求するための法定要件が充たされているか否か、何を請求されているか、また、拒絶理由があるか否か等を慎重に検討する必要がある。

1 会計帳簿閲覧謄写請求権
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は、発行済み株式総数の100分の3以上の株式を有する株主は、会社の営業時間内はいつでも、会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができる(会社法433条1項)。この権利は、株主が、取締役の不正行為等の調査をするために用いられる。

2 要件
(1) 主体
会計帳簿等閲覧請求権を行使できる主体は、総株主の議決権の100分の3以上、又は、自己株式を除く発行済株式総数の100分の3以上の株式を有する株主に限られている(会社法433条1項)。なお、定款によって、この要件を軽減することは許されている。
この要件は、1人の株主で充たせない場合、複数の株主の議決権数又は株式数を合算することにより充たすのであれば、共同して請求することができる。
なお、特例有限会社の場合、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主のみがこの権利を行使できるとされている(整備26条1項)。

(2) 理由の明示
会計帳簿閲覧謄写請求権を行使するためには、株主は、当該請求の理由を明らかにしなければならないとされている(会社433条1項後段・3項後段)。この理由は、具体的にされなければならないが、その理由を基礎づける事実が存在することを立証する必要はないとされている(最判平成16年7月1日民集58巻5号1214頁)。そのため、請求者から明らかにされた理由を基礎づける理由の立証がない、という理由で会計帳簿閲覧謄写請求を拒絶することは違法となる。
どの程度具体的に記載されていなければいけないか、その程度も問題となるが、「貴社が予定されている新株の発行その他会社財産が適正妥当に運用されているかどうか」確認するためという理由では、具体的に記載したとは言えないとされている(最一小判平成2年11月8日判タ748号121頁)。

(3) 請求対象の特定
なお、株主がこの権利を行使する際に、対象となる会計帳簿等を特定する必要があるか争いがある。請求者による特定の困難さから、これを不要とする見解もある(江頭「株式会社法 第7版」710頁)が、裁判例では、年度や帳簿の種類等によって対象を特定する必要があると判断している(仙台高判昭和49年2月18日高裁民集27件1号34頁、高松高判昭和61年9月29日判時1221号126頁)。

3 「会計帳簿またはこれに関する資料」とは
また、そもそも会計帳簿閲覧謄写請求権の対象である「会計帳簿又はこれに関する資料」とはが何を指しているのか、限定説と非限定説の争いがある。
非限定説は、会計・経理に関する一切の帳簿・資料が対象に含まれるとする説である。
限定説は、「会計帳簿」について、計算書類及びその附属明細書の作成の基礎となる帳簿(仕訳帳、総勘定元帳、各種補助簿等)とし、「これに関する資料」は、その帳簿作成の材料となった資料(伝票、領収書、契約書等)を指すと解されている。
具体的には、法人税確定申告書(勘定科目内訳明細書等の添付資料含む)がこれに含まれるか否かという点で違いが生じる。また、契約書、請求書、領収書、当座預金照合表等は、限定説の場合、帳簿を作成するための直接の材料になっているか否か、実際の会計処理によって判断されることになる。
裁判例は、限定説を採用しています(横浜地判平成3年4月19日判時1397号114頁、東京地決平成元年6月22日判タ700号155頁、大阪地判平成11年3月24日判タ1063号188頁)。

4 拒否事由該当性の確認
会計帳簿閲覧謄写請求をされた場合、上記要件を充たす場合には、拒絶事由がない限り、株式会社はこれを拒絶できない(会社433条2項)。
拒絶事由は、以下の5つが定められている。
① 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
② 請求者が、当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
③ 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
④ 請求者が会計帳簿閲覧謄写請求によって知り得た事実を、利益を得て第三者に通報するために請求したとき。
⑤ 請求者が過去2年以内において、請求者が会計帳簿閲覧謄写請求によって知り得た事実を、利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
株式会社が、株主からの会計帳簿閲覧謄写請求を拒絶する場合には、上記拒絶事由の存在を株式会社が立証する必要がある。
譲渡制限株式について、その株式を譲渡しようとする株主が、その手続に適切に対処するため、株式の適正な売却価格を算定する目的で会計帳簿等の閲覧等請求をされた場合は、特段の事情が存しない限り、①の拒絶理由に該当しないと判断されている(最高裁平成16年7月1日判決判タ1162号129頁)。よって、譲渡制限株式の売却の検討を理由とされてしまうと、③や⑤に該当していない限り、拒絶するのは困難と思われる。

5 不当拒絶
何ら拒絶事由立証をすることなく、不当に拒絶した場合には、請求者である株主から、閲覧又は謄写を求める仮処分の請求をされる可能性が高くなるので、注意が必要である。
また、不当拒絶をした場合、取締役個人の損害賠償責任(会社429条)や、過料の制裁(会社976条4項)の可能性もある。