法務note

Q 従業員の失踪

労務関係

Q 従業員と連絡がとれない場合の対処

A 相当期間従業員と連絡が取れない以上、雇用契約を終了させる方向で検討する必要がある。

 

1 従業員と連絡がとれなくなってしまった理由には様々な理由が考えられ、一概に従業員に責があるとは限らない。そこで、従業員の自宅を訪問したり、家族に連絡をとってみるなどまずはなるべく情報収集に努めるべきと思われる。

2 しかし、それでも相当期間従業員と連絡がとれないような場合には、当該従業員との雇用契約を終了させる方向で検討せざるを得ない。

労働契約を終了させる方法としては、就業規則上、当然退職事由に該当する場合には当然退職として扱うことが可能である。しかし、当然退職事由に該当しない、又は、そのような就業規則がない場合には、解雇という方法しかない。

3 家族からの退職

家族や身元引受人から退職届を提出してもらったり、または、家族等との間で退職合意をしてしまう実務上の取扱もなくはないが、従業員本人の意思表示がない以上、法的には無効である。家族等に対する会社からの解雇通知も同様に無効である。

4 解雇の方法

解雇をする場合、懲戒解雇とするか、普通解雇とするか、また、予告解雇をするか、即時解雇をするかという問題がある。いずれの解雇の方法も取り得る可能性があるが、失踪の原因が不明であり、また、本人の弁明の機会を実質的に与えることができないという問題があるため、懲戒解雇は避けるべきと思われる。

5 解雇の意思表示の到達方法

また、いずれの解雇であっても、解雇は、会社から従業員に対する雇用契約を終了させる意思表示であるから、原則として、その意思表示が従業員に到達する必要がある(民法97条1項)。しかし、失踪者の場合、通常の方法では、意思表示を到達させることができないので、「公示による意思表示」という方法(民法98条)によって行う必要がある。

「公示による意思表示」は、相手方の最後の住所地を管轄する簡易裁判所に申立をし、その裁判所の掲示場に掲示をし、かつ、掲示があったことを官報に掲載させ、一定の期間の経過(最後に官報に掲載した日から2週間の経過)によって意思表示が到達したものとみなす制度である。

この申立をするためには、裁判所への申立書、予納郵券、その他所定の添付書類を用意する必要がある。所定の添付書類の中には、相手方(従業員)が所在不明であることを疎明するために調査報告書等の書類があり、この書類の作成にある程度の手間を要することになる。

6 当然退職事由

就業規則に当然退職事由の定めがない場合、上記のような手続が必要となるため、これを避けるためにも、当然退職事由を就業規則に定めておく必要性が高い。