法務note

Q 配偶者居住権とは(意義、制度趣旨、発生要件、対抗要件)

その他

平成30年相続法改正における配偶者の居住を保護するための方策の一つで、ある程度長期間に亘ってその居住建物を使用することができるようにするための方策。

【意義】
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として,終身又は一定期間,配偶者がその使用又は収益をすることができる法定の権利

【制度趣旨】
配偶者居住権創設前は、配偶者が居住する土地建物を取得してしまうと、それによって配偶者の相続分を充たしてしまい、現預金等の他の遺産を取得することができなくなってしまう場合があった。
そこで、配偶者居住権の新設により、居住する土地建物の評価額を、
「配偶者居住権」の評価額と
「負担付き所有権」の評価額
に分けることができるようになり、低廉な評価額で配偶者の居住権を確保しつつ、その後の生活資金として預貯金等もある程度確保するという柔軟な遺産分割が可能となる。

【法的性質】
賃借権(使用貸借権)類似の法定債権であり、帰属上の一身専属権である。
よって、譲渡不可(民法1032条2項)。
また、配偶者の死亡により消滅(相続の対象にならない。民法1036条・597条3項)。

【発生要件】(民法1028条1項)
1 配偶者が相続開始時に被相続人所有(※1)の建物(※2)に居住していた(※3)こと、
2 ① その建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割(※4)がなされたこと、又は、
  ② 被相続人による遺贈(※5)又は死因贈与(※6)がされたこと。

※1
Q 共有持分の場合は配偶者居住権成立するか。
A 被相続人が第三者と共有していた場合には、成立しない(民法1028条1項但書)。
   ∵ もともと排他的利用権なかった。
 但し、被相続人と配偶者との共有の場合には成立する(民法1028条1項但書)。
   ∵ もともと共有持分に基づき建物利用権を有しているが、この場合に成立させないと、他の相続人からの不当利得返還請求、又は、共有物分割請求の恐れがあるため。

 

※2
Q 店舗兼住宅の場合はどうか。
A 可 ∵ 全部に「居住」していたことまで要求されていない。
→ この場合でも配偶者居住権は建物全部に及ぶ。
→ 建物の一部についての配偶者居住権は認められない(登記が技術的に困難。)

Q 建物の一部が賃貸されていた場合はどうか。
A 可   
→ この場合でも配偶者居住権は建物全部に及ぶ。
→ しかし、対抗要件を有している賃借人は、自らの使用収益権限を配偶者居住権を有している者に対抗できる。

Q この場合賃借人は、賃料を誰に(所有者?配偶者居住権者)に支払うべきか?
A 所有者
 ∵ 所有者が賃貸人たる地位を承継している(「一問一答 新しい相続法〔第2版〕」16頁)。

※3
Q 「居住していた」とは生活の本拠としている必要があるか。
A ある
  但し、相続開始時に、一時的に入院していたような場合も、生活の本拠としての実態を失っていなければ構わない。

※4
遺産分割の審判の場合
1 共同相続人間に配偶者に配偶者居住権を取得する旨の合意が成立しているとき、又は、
2 ⅰ 配偶者の配偶者居住権の取得を希望する旨の申出があり、かつ、
  ⅱ 配偶者の生活を維持するために特に必要がある場合
に限り、定めることができる(民法1029条)。

※5 「相続させる旨の遺言」によっては配偶者居住権を取得させることができない。その理由は、配偶者居住権の取得を希望しない場合、「相続させる旨の遺言」だと、配偶者居住権のみの取得を拒絶することができず、相続放棄をするほかなく、かえって配偶者の利益を損なうおそれがある。そのため、「相続させる遺言」で配偶者居住権を取得させる遺言のその部分は、無効になる。但し、遺言者の合理的意思解釈から、「遺贈」の趣旨と解する余地はある(「一問一答 新しい相続法〔第2版〕」14頁)。

※6 法文上は、「遺贈」としか記載されていない。しかし、死因贈与は、その性質に反しない限り遺贈の規定が準用されることとされ(民法554条)、死因贈与により配偶者居住権を取得させることを否定する理由はないため、死因贈与によることも認められる(「一問一答 新しい相続法〔第2版〕」12頁)。

 

【対抗要件】
第三者対抗要件として登記が必要となる(民法1031条2項・605条)。
調停、審判による遺産分割であれば、所要の記載がなされることにより、単独で登記申請可能(不登法63条1項)。
→ 遺産分割調停、審判の場合には、単独申請できるよう条項を注意する必要がある。
それ以外の場合には、所有者と共同申請(不登法60)。