法務note
Q 監査役による計算書類等の監査
Q 監査役による計算書類等の監査においては、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認すれば足りるか。
A 足りない。
最高裁令和3年7月19日第二小法廷判決は、経理担当従業員が、長期かつ多数回に亘って会社の預金口座から従業員名義の預金口座に合計2億3523万円余りを送金し横領した事案について、会社が、公認会計士・税理士資格を有していた会計限定監査役の責任追及をしたケースについて、
「計算書類等が各事業年度に係る会計帳簿に基づき作成されるものであり(会社計算規則59条3項(上記改正前は91条3項)),会計帳簿は取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものであるとはいえ(会社法432条1項参照),監査役は,会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではない。監査役は,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでなくとも,計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを確認するため,会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め,又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである。そして,会計限定監査役にも,取締役等に対して会計に関する報告を求め,会社の財産の状況等を調査する権限が与えられていること(会社法389条4項,5項)などに照らせば,以上のことは会計限定監査役についても異なるものではない。そうすると,会計限定監査役は,計算書類等の監査を行うに当たり,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても,計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではない。」
と判示した。
そして、会計限定監査役が任務を怠ったと認められるか否かについては,
「上告人(会社)における本件口座に係る預金の重要性の程度,その管理状況等の諸事情に照らして被上告人が適切な方法により監査を行ったといえるか否かにつき更に審理を尽くして判断する必要があり,また,任務を怠ったと認められる場合にはそのことと相当因果関係のある損害の有無等についても審理をする必要があるから,本件を原審に差し戻すこととする。」
と判断し、原審に差し戻している。
この最高裁の事案では、従業員がその発覚を防ぐため、残高証明書を偽造していたが、残高証明書のカラーコピー乃至白黒のコピーが監査役に提供されていたため、監査役は、残高証明書の原本を提示を求めるべきであったのではない等が争点となっていた。
なお、草野裁判官による差戻審に向けた以下のような補足意見がある。
まず、差戻審が被上告人(会計限定監査役)が任務を怠ったか否かを検討するに当たっては,以下の2点に留意すべきとする。
① 会計限定監査役が公認会計士資格を有していたとしても,会社の監査に当たり会計限定監査役にその専門的知見に基づく公認会計士法2条1項に規定する監査を実施すべき義務があったとは解し得ない。
理由 ・ 会計限定監査役は,公認会計士又は監査法人であることが会社法上求められていない。
・ 会社計算規則121条2項が同法2条1項に規定する監査以外の手続による監査を容認しているのはこの趣旨による。
② 監査役の属性によって監査役の職務内容が変わるものではない。
理由 ・ 監査役の職務は法定のものであるため(但し、会社と監査役の間において監査役の責任を加重する旨の特段の合意が認定される場合は格別)。
そして、上記の各点を踏まえ,
ア 本件口座の実際の残高と会計帳簿上の残高の相違を発見し得たと思われる具体的行為を想定し
(例えば,本件口座がインターネット口座であることに照らせば,被上告人が本件口座の残高の推移記録を示したインターネット上の映像の閲覧を要求することが考えられる。なお,会計限定監査役にはその要求を行う権限が与えられているように思われる(会社法389条4項2号,同法施行規則226条22号参照)。)
イ 本件口座の管理状況について会社から受けていた報告内容等の諸事情に照らして,
ウ 当該行為を行うことが通常の会計限定監査役に対して合理的に期待できるものか否か
を見極めた上で判断すべきであると意見している。