法務note

Q 取締役会決議における「特別の利害関係を有する取締役」に該当するのはどのような場合ですか。

会社法

A ある取締役が、ある決議において、会社に対して誠実に忠実義務履行することができないことが定型的に困難と認められる関係を有する場合です。

1 会社法369条2項「特別の利害関係」
会社法369条2項は、取締役会決議について、「特別の利害関係を有する取締役」は、議決に加わることができないと定めています。これは、当該取締役が、忠実義務(会社355条)を誠実に履行することが期待できないからです。そのため、「特別の利害関係」を有するか否かは、ある決議において、会社に対して誠実に忠実義務履行することができないことが定型的に困難と認められる関係を有する場合と言われています(森本滋「会社法コンメンタール8-機関(2)」(商事法務)292頁)。
なお、株主総会の場合、株主が決議に特別利害関係を有する場合であっても、議決権行使自体は禁止されていません(但し、決議取消事由になる可能性があります(会社831条1項3号)。また、自己株式の取得に係る売主たる株主の場合、株式取得に係る決議において議決権行使が制限されています(会社140条3項、160条4項、175条2項))。

2 具体例
具体的には、次のような場合が、「特別の利害関係を有する取締役」(会社369条2項)に該当すると言われています。

① 競業及び利益相反取引の場合
取締役が、競業及び利益相反取引を行おうとする場合の承認決議(会社356条1項)における当該取締役

② 譲渡制限株式に係る譲渡等承認請求の場合
譲渡制限株式における譲渡当事者が取締役で、その承認請求に係る取締役会決議の場合、争いありますが、取締役が譲渡人、譲受人いずれの場合であっても「特別の利害関係を有する取締役」に該当すると解されています(江頭「株式会社法 第7版」237頁)。

③ 会社に対する責任の一部免除(会社426条1項)

④ 特定の取締役に対して第三者割当増資をする場合
特定の取締役に対して第三者割当増資をする場合の取締役会決議について、当該取締役は特別利害関係にあります。
なお、仮に複数の取締役に第三者割当増資をする場合、各取締役毎に異なる議案と考えられますので、一つの議案について、議決権行使できないのは、当該議案に係る取締役一名になります。

⑤ 代表取締役の解任決議
代表取締役の解任に関する取締役会の決議については、閉鎖型の会社の場合には「特別利害関係」にあたらないとする有力な学説もあります(江頭「株式会社法 第7版」422頁)。しかし、最高裁は、当該代表取締役は「特別利害関係」にあたると判断しています(最判昭和44・3・28民集23間3号645頁)。
なお、代表取締役の選任決議においては、代表取締役候補者たる取締役はこれに該当せず、議決権を行使することができると解されています。そのため、取締役会が2派の派閥争いになった場合、他方派閥の代表取締役を解任できても、自らの派閥の代表取締役を選任できず、代表取締役がいない状態が継続するという事態が生じる場合がありますので注意が必要です(解任された代表取締役は、権利義務代表取締役にはなりません(会社351条1項参照)。)。

⑥ 取締役会決議において、株主総会に上程する議案を決議する場合の、その総会決議の議案について利害関係を有する場合
例えば、総会決議に上程すべき特定の取締役の退職慰労金支給に係る原案決定の取締役会であったり、また、同様に、総会に上程すべき特定の取締役の解任の原案決定の取締役会においては、確かに、退職慰労金の支給や解任の有無は総会において決議され、取締役会においては、総会に上程すべき議案を決議するのみですから、利害関係は間接的とも言えますが、当該取締役が取締役会で反対の議決権を行使することによって、株主総会で当該議案の可否を問う機会すら奪うことがあり得ることから、利害関係あると解されます(前者について、前掲森本296頁。後者について、東京地裁決定平成29・9・26(金融・商事判例1529号60頁)。