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氏名冒用訴訟 3
翌朝一番,横浜地裁の事件受付係に電話をしました。
私「訴状提出が平成○年○月○日で,原告A,被告Bの事件はありますか?」
受付「ありますね。」
私「事件番号と係属部を教えて下さい。」
受付「事件番号が平成○年(ワ)第○○号で,係属部は,第○民事部ですね。」
更に,係属部に連絡をいれました。
私「平成○年(ワ)第○○号,原告A,被告Bの事件ですが,現在の進捗を教えていただけますか。」
書記官「明日が第1回期日で,明日和解成立予定のようですね…」
私「…え?…。今すぐに記録閲覧に行きます。」
直ぐに横浜地裁に行き,記録を閲覧したところ,
やはりAが原告になり,金貸しBを被告として,「所有権移転登記抹消登記請求事件」を提起していました(要は,AからBへの不動産の名義変更を取り消せ!という裁判です。)。ただ,Aの代理人になっているのは,私ではなく,東京のC弁護士でした。
弁護士が依頼者の代理人となって訴訟をするときは,必ず「訴訟委任状」という委任状を提出しているはずです。ですので,訴訟委任状を確認しました。
《…やっぱり。》
通常,弁護士が用いる訴訟委任状というのは,各弁護士が所属する事務所の所在地や電話番号,FAX番号,弁護士名,更に,定型の委任事項が予め印刷されている書式を用いています。
ところが,この記録に綴じられていた訴訟委任状は,確かに,Aの署名と印鑑が押されていましたが,文房具屋で販売しているような通常の「委任状」の書式に,手書きでC弁護士の事務所所在地,電話番号,C弁護士名,委任事項が記載されていました。委任状のタイトル部分には,印刷されている「委任状」という上に手書きで「訴訟」と書き加えられているのです。
怪しい臭いがぷんぷんする訴訟委任状でした。
直ぐに事務所に戻り,ボスに,
「Aが金貸しBに訴訟提起していました。」
と説明したところ,ボスは開口一番,
「仕方ない。じゃ,辞任しよう。」というのです。
「えっ!?」
《ああ,そうか。ボスは,Aが東京の弁護士に二重に委任をしたと勘違いをしたのか…》
「いや,そうではなくて,たぶん,C弁護士は無権代理です。使われていた訴訟委任状は,たぶんAがB金貸しに事前に渡していた白紙の委任状をつかったものに間違いないです。」
事情を把握したボスは,
「いま直ぐにAを事務所に呼んで確認をしよう。」
弁護士は,依頼者の代理人となって行動をすることがほとんどなのですが,その前提として,当然,依頼者からある事件について代理人となることを了承してもらっています。このことを「代理権の授与」などといいます。しかし,本人から代理権を授与されていないにもかかわらず代理人として行動していることを「無権代理」と呼びます。
C弁護士は,Aの代理人として行動をしている(訴訟を提起している)のですが,C弁護士がAの代理人になることについて,Aの了承をもらっていない可能性が高かったのです。
1,2時間後ぐらいに事務所に来たAに,「全国弁護士大鑑」(全国の弁護士の写真入り名簿)でC弁護士の写真を見せました。
私「この弁護士知りませんか。」
A「知らない。」
私「この弁護士に何か事件を依頼していない?」
A「いや知らない。」
私が,これまでのいきさつと事情を説明したところ,
A「僕はバカだけど,二重に弁護士を依頼するほどバカではない。絶対にC弁護士なんか知らないし,C弁護士に何も依頼していないので,信じて欲しい。」
私とボス「わかった。信じる。」
C弁護士が起こした訴訟の第1回口頭弁論期日は明日の午前10時でした。しかも,書記官の話しによれば,なんと第1回目の期日で和解成立予定とのこと。第1回期日で和解が成立することもなくはないですが,通常はないです。
私から担当の書記官には連絡をいれ,簡単に事情を説明しておき,とにかく明日の10時,私とボスとAの3人で横浜地裁の法廷に行こうということになりました(多少の作戦は考えてましたが)。