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未支給年金は相続財産ではない。
現在,社会保険庁は,年金記録訂正による再裁定の作業量が莫大であるにもかかわらず,それを処理できる人員が確保できないため,再裁定に1年以上の時間を費やしているようです。
そのため,直ぐに再裁定が行われれば,差額の年金がもらえたはずであるにも関わらず,再裁定に時間を要しているために,差額分の年金を受領する前に,年金受給権者が亡くなってしまうというケースが多いようです。
本来,高齢者等の生活の維持安定を確保するための年金のはずなので,全くナンセンスな話です。
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ところで,このように本来年金受給権者が受け取るべき年金を受け取れないまま死亡したような場合の年金を未支給年金といいます。
未支給年金は,故人の国に対する年金支給権という債権であるから,他の債権と同様,相続財産と思われますが,実は,相続財産ではありません。
具体的に,どのような違いが生じるかというと,
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まず,未支給年金は,故人の法定相続人だからといって,必ず受領できるとは限りません。
つまり,本来,相続財産であれば,故人の法定相続人であれば,法定相続人が受領する権限があります(他の共同相続人との関係はここでは述べませんが)。
しかし,未支給年金は,相続財産ではありませんので,法定相続人だからといって当然には受領できません。
では,誰が,受領できるのか?
それは,
第1順位 配偶者
第2順位 子
第3順位 父母
第4順位 孫
第5順位 祖父母
第6順位 兄弟姉妹
です。
「なんだ,法定相続人ではないか!」と思うかもしれませんが,微妙に異なります。
法定相続人は,
配偶者 常に法定相続人
第1順位 子(子が既に死亡している時は,その子の子(孫))
第2順位 直系尊属(父母→祖父母というように,親等の近いものが先になる。)
第3順位 兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡しているときは,そこ子)
となります。
とても似ていますが,少し違います。
例えば,もし未支給年金が相続財産だとすると,故人の配偶者と子2人がいる場合,配偶者と子2人の合計3人が法定相続分に応じて取得することになります。ですので,未支給年金が60万円だとすると,
配偶者 30万円
子 各15万円
となります。
しかし,未支給年金は相続財産ではなく,国民年金法19条1項に記載された順になりますので,第1準備の配偶者のみが取得することになります。
また,相続であれば,兄弟姉妹の子(故人からすれば甥姪)も取得可能性がありますが,未支給年金の取得者としては規定されていませんので,甥姪は取得できません。
このように未支給年金の受給権者は,法定相続人と似ていますが,全く同じではありません。
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また,相続にはない,別個の要件も必要になります。
すなわち,故人と「生計を同じくしていた」という要件が必要になります。
相続の場合,「生計を同じくしていた」という要件は必要ありません。
先に述べたような関係があれば,相続人として権利を取得できます。
ですので,故人とは生前まったく縁もなかった相続人が権利を取得することもあり,「笑う相続人」と呼ばれたりします。
未支給年金は,相続財産ではなく,未支給年金の受給権者として「生計を同じくしていた」という要件を規定していますので,この点でも相続の場合と異なります。
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更に,未支給年金の受給に関して,少し驚く規定もありました。
国民年金法19条5項は「未支給の年金を受けるべき同順位者が2人以上ある時は,その1人のした請求は,全員のためその全額につきしたものとみなし,その1人に対してした支給は,全員に対してしたものとみなす。」とあります。
つまり,受給権ある誰か1人に支払えば,国は知らないよ。後は,受給権者間で調整しなさいというものです。
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未支給年金は,相続財産ではありませんから,相続税の課税対象財産でもないようです。
遺族の一時所得(所基通34-2)となるようです。