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第3分野の保険(傷害保険)

学問のすすめ

保険契約については,現在,商法が規定していますが,
 損害保険(損害の補填を目的とする)
 生命保険(人の生死に関して一定の金額を支払う)
の2種類しか規定していません。

 

しかし,傷害保険とか,傷害疾病保険(入院保険とか,ガン保険などと呼ばれています。)という「第3分野の保険」と呼ばれる保険が普及しています。
これは,保険金が一定の金額である場合には,損害の補填ではないので,「損害保険」とも異なり,また,「生死」ではなく「傷害」によって保険金が支払われるので,「生命保険」とも異なるので,「第3分野の保険」と呼ばれているようです。
(平成20年6月6日公布された「保険法」では,この第3分野の保険である「傷害疾病定額保険」が明記されるようになりました。)。

 

この傷害保険は,傷害が生じただけでは保険金が支払われず,更に死亡したとか,後遺症が生じたとか,入院や通院をしたという事由が必要です。
死亡した場合にも保険金が支払われる場合があるので,生命保険と間違えやすいのですが,生命保険の場合と異なり,傷害保険の場合には,
急激に,
偶然に,
外来の出来事(事故)
によって,
傷害が生じ,
これによって,死亡したこと。
という事情が必要になります。

 

この「外来の出来事(事故)」(「外来性」と呼ばれています。)との関係で,度々裁判になるのが,高齢者の浴室での溺死です。

 

石鹸に足を乗せて滑り,転倒し,頭を打ち気絶し,溺死した。というような場合,外来性を充たすことに問題はないでしょう(立証の問題はありますが。)。
また,疾病によって死亡した場合には,外来性がないため,傷害保険の対象にならないことにも問題はありません。

しかし,浴室での溺死の場合,その多くは,疾病と事故が競合しているので問題となることが多いのです。すなわち,脳卒中や心臓発作により一時的なめまい,意識障害を起こし,湯船内で溺れてしまうという場合,死亡の直接の原因は,肺に水が流入することによる溺死になりますが,間接的には,疾病によってその様な事故が招かれているので,そのような場合にも外来性があるといえるのかが問題とされていました。

 

この点について,従来の下級審判例は,「外来性」とは,身体の外部から作用したものであり(身体の内部からのものではなく),かつ,間接的な原因も身体の内部に原因とするものではないこと,という定義づけを行い,間接的な原因も身体の内部に原因とするものではないことを誰が立証するかという問題で議論をしていたように見受けられます。

 

しかし,昨今の最高裁判例(最高裁第二小法廷判決平成19年7月6日判決,最高裁判所第二小法廷判決平成19年10月19日判決)は,外来性について,単に「身体の外部からの作用による事故をいう」と定義づけし,間接的な原因も身体の内部に原因とするものではないこと,という要件は組み込みませんでした。

 

よって,保険請求者(被保険者の遺族)は,被保険者が溺死であることを立証すれば足り,疾病が間接的も原因とはなっていないことを立証する必要がなくなったのです。

 

保険によっては,間接的な原因が疾病による場合には保険金を支払わない旨の疾病免責条項がある場合がありますが,この「間接的な原因が疾病による」という事由は,保険会社側が立証しなければいけません。
また,疾病免責条項がないような場合には,そもそも間接的な原因が疾病による場合であっても,外来性を充たすこと(すなわち,溺死であること)を立証すればいいことになります。

 

この最高裁判例によって,浴室での溺死のケースで保険請求がかなり認められやすくなりました。