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氏名冒用訴訟 1

学問のすすめ

氏名冒用訴訟ってご存じですか?
BがAになりすましてAの名前で訴えを起こしたり,Aが訴えられているにも関わらず,BがAになりすまして被告として活動していたりするような場合を,氏名冒用訴訟と言います。

 

民事訴訟法を勉強すると,「当事者の確定」という問題があるのですが,ここで「氏名冒用訴訟」という言葉がでてきます。「当事者の確定」とは,訴訟上の当事者が誰か,という議論なのですが,先の例で言うと,
前者の例では,
 訴状に記載されている原告はAだけど,実際原告として活動しているのはB
後者の例では,
 訴状に記載されている被告はAだけど,実際被告として活動しているのはB
というように,訴状に記載されている当事者と,実際に活動している者が異なるような場合,誰が原告と被告なのかという問題なのです。

 

判例通説は,訴状に記載されている者が当事者と考える「表示説」を採用していると言われています(ざっくりした結論ですから,司法試験等のために民事訴訟法を勉強されている方は,きちんと基本書等を読んでください。)。
一般の方は,なんでこんな議論をしているのか,全く理解できないかもしれませんが,例えば,判決の効力が誰に及ぶのかという問題に関連します。判決の効力は,当事者(原告と被告)に及ぶのが原則ですから,当事者は誰かという問題が生じるのです。先の例でいれば,「表示説」によれば,全く訴訟に関与せず,訴状に記載されていただけのAが当事者として判決の効力が及んでしまうことになります。Aにとって有利な判決ならいいのでしょうが,通常は,そうではありません。では,Aは訴訟に全く関与していないのに,不利な敗訴判決の効力が及んでいいのかという問題を考えなければいけません。

 

ただ,このような話しは現実には全くない机上の議論だけと思っていました。

 

しかし,実際にあったのです。氏名冒用訴訟が。
10数年弁護士やってきましたが,やはり一番印象に残っている事件がこの事件です。