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マンション駐車場と専用使用権について
マンションの駐車場の利用関係について,法的には専用使用権の法的性質,内容が不明確であること,現実的には,マンションにおける駐車場の絶対数の不足を原因として,駐車場の専用使用権を巡る紛争が多く,深刻な問題となっているようです。
マンション駐車場の専用使用権については,そもそも分譲業者が,建物専有部分及び敷地共有持分とは別に,共有部分である敷地について駐車場としての専用使用権を分譲して,その対価を取得する販売方式が,購入者に対して分譲したはずの敷地について,二重の利益を得ており,公序良俗に反し,無効ではないかという問題がありました。建設省も昭和54年に,このような取引形態は避けるべき旨の通達を発していました。ただ,この点については,昭和56年の最高裁判決によって,「公序良俗違反として無効とはいえない」と判断され,一応の解決がなされています。
そして,平成10年には,マンション駐車場と専用使用権に関する重要な最高裁判決が4件続けて言い渡され,いくつかの争点に関する判断がなされました。
その一つが,マンション駐車場の専用使用権に関する分譲代金が誰に帰属するかという問題です。つまり,マンション駐車場の専用使用権の分譲が有効だとしても,それは管理組合乃至区分所有者全員の委任に基づいて分譲を行ったものであるから,分譲代金は管理組合乃至区分所有者全員に返還すべきではないかという問題です。この点について,平成10年10月22日最高裁第一小法廷判決(民集52-7-1555)は,あくまでも売買契約書の解釈ではあるのですが,分譲業者に帰属する旨判断しました。
2番目が,専用使用権の内容を変更するのに,専用使用権者の承諾なく,管理組合や集会決議によって一方的に変更することができるかどうかという問題です。具体的には,分譲時に決められた駐車場利用料を,規約の設定変更や集会決議によって,増額変更できるかどうかという問題です。法的には,区分所有法31条1項後段の「特別の影響を及ぼすとき」に該当するかという問題ですが,それ以前にそもそも専用使用権の法的性質をどのように考えるか(債権的利用権か,物権的利用権か,それとも共有物の管理に関する合意に基づく利用権か)という問題も絡んでくる問題です。
この点について,平成10年10月30日最高裁第二小法廷判決(民集52-7-604)は,区分所有法31条1項後段の「特別の影響を及ぼすとき」について,「規約の設定,変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較考慮し,当該区分所有関係の実態に照らして,その不利益が区分所有者の受任すべき限度を超えると認められる場合をいう」とし,「使用料の増額についていえば、使用料の増額は一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。」と判断しました。
要するに,使用料を増額する必要性と合理性それから増額された使用料の社会的相当性があれば,規約の変更や集会決議によって,一方的に使用料の増額変更ができるということです。
更に,「増額された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、規約の設定、変更等は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である。」と判断しました。これを前提にすれば,増額の必要性と合理性があれば,使用料の増額自体は正当なものとされるのであるから,増額金額が不適当であっても,総会決議等に瑕疵が生じることにはならないということになります。
そして,増額された使用料が社会通念上相当なものか否かについて、「当該区分所有関係における諸事情、例えば、(1)当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体の価格との関係、(2)分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移、(3)この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動、(4)専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間、(5)マンション駐車場の維持・管理に要する費用等を総合的に考慮して判断すべきものである。」と判示しています。
使用料増額の効果発生時期は,変更された規約内容や総会決議によることになりますから,それ以降は,増額された使用料を支払わなければ債務不履行となり,解除の対象になるとも考えられます。
しかし,前述のように,増額金額が不適当であっても,社会通念上相当な額と認められる部分で効力が発生するので,最終的には裁判所の判断を待たなければならないことがほとんどと思われます。にもかかわらず,相当な額を専用使用権者側で判断し,それを支払わなければ解除されるのでは酷です(管理組合が一方的に定めた増額使用料を支払わざるを得なくなってしまう。)。そこで,前記最高裁判決も,理論的構成は明らかではありませんが,解除の効果を否定しています。
以上を要約すると
1 駐車場の専用使用権分譲も有効
2 その分譲代金は,分譲業者に帰属
3 駐車場使用料は,必要性合理性があれば,規約や集会によって,一方的に増額変更できる。
4 但し,その額は社会通念上相当な額の範囲内
5 増額された使用料を支払わないからといって,解除が直ちに認められるわけではない。
ということになります。
平成10年の最高裁判例では問題となっていませんでしたが,マンション駐車場の専用使用権については,まだ以下のような問題点を抱えています。
専用使用権は譲渡できるのか。専用使用権そのものに内在する制約があるか。
規約によってその譲渡に制限が加えられている場合,それに反して譲渡した場合の効果は。
専用使用権を時効取得することができるか。
などです。
これら問題については,また機会をみてまとめてみます。